起きてから寝るまで

初めての目覚め

 

『アンタは1万人に一人の確率で産まれたのよ。私が死ぬ思いで産んだの』

事ある度に母が私に言う言葉

昔はそれを聞くと『別に産んでもらいたかったわけじゃないし』と返していた。

気付くと『うんうん、そうなんだ。ありがとね』と大人びた返しも出来るようになっていた。

 

197○年3月私は初めて目覚めた。

気が強い6歳上の姉、気の弱い1つ上の兄、怒ると怖い父、人付き合いが上手い母が家族だ。

この時期にしては珍しく雪が降っていたと聞いた。陣痛が起きてもなかなか進まないお産。大きな病院に向かう救急車の中で母はいきむにいきんで内臓と一緒に私を産んだと言っている(ほんとかよ)

前置胎盤だったらしい。

 

埼玉の某工場の裏の長屋。工場から流れ出す工業排水の川が流れていた。その川にはザリガニが住んでいて近所の子らとスルメぶら下げて釣った思い出がうっすらある。

毎日鋳物の臭いが漂っていて嫌だった。ドブの匂いが嫌だった。

夕方になるとリアカーを引いたおじいちゃんがラッパを鳴らしながら味噌こんにゃくを売りに来ていた。

近所の大垣さんと言う家の女の子はいつも鼻水を垂らし汚れたシミーズとパンツ1枚で外に立っていて、側溝で用を足していた。食べ物をあまりもらえてないなかったらしく、いつも指をしゃぶりうちの母がお菓子やパンを与えていたらしい。

私が歩けるようになると母は派手な化粧をして夜出掛けるようになった。

父が言うに【お仕事】に行っていたらしい。

私と姉はその姿を見て『あ!スパイダーマン』っと言っていた。